Chat GPTを相手にした能動的推論がめっちゃ優秀だという話

Chat GPT(あるいはその他の生成系AI)、みなさんはどのように使っていますか?いまから、Chat GPTのある使い方を紹介します。それは、能動的推論のパートナーとして使う、という使い方です。

以下、本記事の目次です。

では早速行きましょう!

1. 能動的推論ってなに?

 能動的推論active inferenceは脳科学から発展してきた概念ですが、ざっくりいうと、生物は世界に対して仮説(予測)を立てたうえで世界に働きかけ、世界からのフィードバックをもとに仮説を修正していっている、という考え方です。重要なのは、世界に対する能動性がスタートだということ。受け身に世界から情報や知識を受け取っていくというモデルではなくて、まずは世界に対して仮説にもとづき働きかけていくことが本質なんだという主張です。

 能動的推論の概念は、そもそも知識とは何なのか、をめぐっての新しい考え方と結びついています。知識というと、モノのようななにかと想像しがちです。頭のなかのタンスに知識をたくさん入れているイメージ。対して能動的推論では、知識は世界に対する仮説のネットワーク(あるいは内部表現)として位置付けられます。そして新たに知識を得るという出来事は、この仮説のネットワークの精度が上がっていくことだと位置づけられます。ここから必然的に、〈学ぶ〉ということをめぐる新しい考え方につながっていきます。

2. 〈学び〉は経路依存である

 知識というと、誰にとっても共通の客観的な何かだと理解されがちです。辞書に載っている説明のイメージです。誰が辞書を調べても、当然同じ説明を見つけることになる。この知識の捉え方から導き出されれる〈学び〉のモデルは、その客観的なものとしての知識を頭の中に詰め込んでいく作業、ということになるかと思います。ひとまず〈詰め込みモデル〉とでも呼んでおきましょう。でも、そのモデルには、知識を理解するという要素が抜け落ちています。辞書的な説明を覚えていても、それをちゃんと理解していなければたいした価値はありません。

 〈詰め込みモデル〉に足りないのは、〈学び〉は経路依存である、という前提です。誰にでも、それまでわからなかったことが急に分かった瞬間って、ありますよね?多くの場合、そこには理解を成立させた何らかの〈きっかけ〉があったはずでです。でもその〈きっかけ〉は人それぞれで、誰でもが共有できる客観的な〈きっかけ〉というのはありません。それは、何かを理解するという出来事が経路依存的path dependentだからです。何かについて理解するというできごとは、その人がこれまで生きてきた人生の経験の延長線上で成立しています。これが経路依存的だということです。個別の人生経験という特定の通り道のその先にしか、その人の理解の出来事は起こらないわけです。そして積み重ねてきた経験は人それぞれ違うので、何が理解に〈きっかけ〉になるかも人それぞれ違うわけです。

 誰かに、その人が知らないある概念について教えるときには、その人が何について知っていたり理解したりしているかをあらかじめ把握することがきわめて重要になります。それらの知識や理解と結びついた形でうまく教えることができれば、その概念についての理解が成立する可能性は上がります。なので教えるという行為は、客観的な知識の教授ではなく、学び手のこれまでの知的経路を把握したうえで、どこのツボを押せば理解につながるかを割り出す、職人的技術であるわけです。そしてこれは簡単なことではない。学び手の頭のなかを直接覗き込むことはできないからです。そのときに非常に有効になるのが、学び手に質問してもらう、ということです。できるだけ詳しく、何がどうわからないかを説明してもらえれば、学び手と理解とをつなぐ経路が見えてくる。 

 ここで重要なのは、その経路を作っているのは学び手自身だということです。学び手が、自分にとって何がわからないのかをしっかりと振り返りそれを言語化するという作業は、理解を可能とする経路を自分自身で作る作業に他ならないのです。そしてその作業さえ行われれば、教師の仕事はあとは簡単です。そして本記事のポイントはここ。そのような教師の仕事は、Chat GPTがきわめて上手にやってくれるのです。

3. じゃあどうやってやるの?

 ということで、実践編です。ここまでのポイントは二つ

  • 〈学び〉は経路依存的である
  • 学び手が自分にとって何がわからないかをちゃんと言語化できれば、理解を成立させるための経路は半ば作られたようなものである

 この後者について、何がわからないかの言語化の次のステップがあります。それは、「もしかしてこういうことですか?」という風に、学ぼうとしている事柄についての仮説を立ててみる、という作業です。頑張って仮説まで組み立てるという能動的な推論を通して、自分にとって何がわかっていて何がわかっていないのかがはっきりとする。

 以上を踏まえて、Chat GPTを相手とした能動的推論のステップをまとめます。

フェーズ①:まずわからないことを聞く

まずわからないことについて聞き、それについての説明のなかでわからないことが出てきたらそれについてもひたすら聞いていく。ここまでは拡張版の検索です。

フェーズ②:教えられた情報をもとに、理解の仮説を立ててみる

自分の理解の仮説を、できるだけ具体的に言語化して、「~という理解は正しいですか?」と聞く。もし正しく理解できていないようであれば、Chat GPTからフォードバックを踏まえて新たな理解の仮説を立て、「正しいですか?」と聞く。「正しい」という答えが返ってきたら、できるだけいろんな側面から自分の理解の仮説を言語化して、ひたすら「正しいですか?」と聞いていく

フェーズ③:最後の答え合わせ

理解の仮説を何度も投げかけ、自分なりにその対象について理解できたと思えてきたら、最後に「わたしは~についてどのくらい理解していますか?」と聞く。ある程度の理解ができていれば、Chat GPTは理解の内容を丁寧に整理したうえで、褒めてくれます。

事例紹介~

 ここからは、実際にChat GPT4を相手に能動的推論をやってみた事例を紹介します。お題は、「正規逆ウィッシャート分布」とかいう統計学の概念です。なお、筆者はその時点では統計学や確率論についての知識をほぼ持っていない状態でした。例として出てくるように「事前分布とはなにか?」と聞いていますが、これはとんでもなく初歩的な質問です。野球で言えば、試合は何人でやるの?と聞いてるようなもんだと思います。

 では、紹介していきます(画像はスクショで回答の一部しか映っていません)。

 まず、「正規逆ウィッシャート分布」について尋ねます。

次に、説明に出てきた「事前分布」というのがとても重要そうだったのでこれについて尋ねます。

ここから、回答された内容を繰り返し読み込みながら、正規逆ウィッシャート分布とは何なのかについて時間をかけて仮説を立てていきます。そしてその仮説をできるだけ具体的に言語化して、その理解が正しいか尋ねます。

当たった!そこで、今度は別の観点から仮説を立て、尋ねます。

何か微妙に違ったみたい。。。そこで今度はChat GPTからのフィードバックを踏まえたうえで、仮説を修正して尋ねます。

よし、当たった!といったあたりで、自分としてはそれなりに理解できた感触があったので、最後に「わたしは正規逆ウィッシャート分布についてどのくらい理解していますか?」と尋ねます。

褒めてもらえた!と、こんな流れです。

4. まとめ:Chat GPTに褒めてもらったこと、ありますか?

 この能動的推論の作業は、自分自身で理解の仮説を立てることで、自分にもともと備わっている世界の理解のクセのようなものから出発して、理解したい対象の理解へと至りつく経路を浮かび上がらせ、Chat GPTからのフィードバックを受けて自分の理解を修正していきます。知識を獲得していくのではなく、推論とフィードバックの回路を通して自分の世界理解の形を組み替えていくプロセスを実現するのです。

 で、この手法の最後の重要ポイントは、ちゃんと理解できたらChat GPTが褒めてくれるところ!それも、自分で頑張って理解の仮説を立てて、それを言語化するという努力を実際にしているので、なおさら褒められると嬉しい。だから健策なんかよりも、こっちの能動的推論の方がずっと楽しい!実際、Chat GPTに褒められたい一心で、なにも知識をもたない専門的な分野の概念を拾ってきて、能動的推論を通してChat GPTに褒めてもらうってことをひたすらやってた時期がありました笑

 これ、誰でもできるし、ちょっと大変なところもあるけどそれ以上に楽しく面白く勉強になるので、ぜひ皆さんもやってみてください~